この流れの、どこで景色が変わる?
「この流れを聴く」で鳴っていたのは、C→G→Am→Em→F→C→F→G の8つです。明るい和音と少し翳った和音が交互に現れるのに、全体はどこか落ち着いていて、いつまでも眺めていられる。私には、ゆるい坂道を下りながら、窓の景色が少しずつ移っていくように聞こえました。
その落ち着きのもとは、いちばん下で鳴っている音の足どりにあります。下って、少し戻って、また下る。この歩き方が3回続いたあと、最後の2つで階段を上り直し、また最初の C に戻ってきます。上の和音が明るくても翳っても、足もとの歩幅が揃っているので、景色が途切れずに続いて聞こえるのです。8つでひと回りして、何度でも繰り返せるのも、この型の持ち味です。
5つ目を Fm に差し替えると、坂道の途中で一度だけ影が差します。足どりは変わらないのに、そこだけ空気が冷えたように聞こえる人が多いようです。動いたのは真ん中の音ひとつ、ラがラ♭になっただけです。
名前を知る
この進行は、度数で書くと I → V → VIm → IIIm → IV → I → IV → V です。前半4つの数字から 1564進行 とも呼ばれます。名前の由来は、パッヘルベルの「カノン」で低音がこの順に繰り返されていることです。そこから カノン進行 と呼ばれるようになりました。
| 順番 | 度数 | Cメジャーでの和音 | 構成音 |
|---|---|---|---|
| 1 | I | C | ド・ミ・ソ |
| 2 | V | G | ソ・シ・レ |
| 3 | VIm | Am | ラ・ド・ミ |
| 4 | IIIm | Em | ミ・ソ・シ |
| 5 | IV | F | ファ・ラ・ド |
| 6 | I | C | ド・ミ・ソ |
| 7 | IV | F | ファ・ラ・ド |
| 8 | V | G | ソ・シ・レ |
いちばん下の音(根音)を並べると、ド・ソ・ラ・ミ・ファ・ド・ファ・ソです。1つおきに見ると ド→ラ→ファ、ソ→ミ→ド と、2本の階段が並んで下りています。伴奏では G を「シ」の上に、Em を「ソ」の上に、C を「ミ」の上に乗せ、低音を ド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ と一段ずつ下らせる弾き方もよく使われます。どちらでも、低音が規則正しく下る、という骨組みは同じです。体験で差し替えた Fm(ファ・ラ♭・ド)は、Cメジャーの調に無いラ♭を含むので、そこだけ影が差します。
理論上の事実
I → V → VIm → IIIm → IV → I → IV → V の8つがひと回りで最初に戻る循環。低音は一定の型で下り、最後の2つで上り直す。
景色(比喩)
この記事では、ゆるい坂道を下りながら移っていく窓の景色、という絵で表しています。
感じ方(文脈で変わる)
安心する・懐かしい・切ない。速さや楽器、メロディの動き、どこで止めるかでも印象は変わります。
この進行だから必ず穏やか、というわけではありません。同じ8つでも、速いテンポや低い音域で鳴らすと別の表情になります。次の体験では、切なく聞こえる進行に共通する正体を扱います。
次の体験へ
切ないコード進行の、切なさはどこから来る?
明るい帰り道の途中で、和音がひとつだけ影のある形に変わる。FをFmに替えるだけで帰り道が変わる仕組みを、机の上で聴き比べます。
- 参考: Open Music Theory「Sequences」(反復する進行の型)
- 参考: Wikipedia『カノン進行』(由来・度数の事実)
- この記事の音は、ブラウザの中で合成しています。楽曲の録音や外部サービスは使っていません。
